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受精卵の発育とそれに適した培養液について
体外受精では、体外に取り出した卵子を精子と受精させ、培養液が入ったディッシュの中で6日間ほど培養し、初期胚や胚盤胞に発育させていきます。体内と体外の環境は大きく異なるため、体外の培養環境を体内に近づけることが、卵子や受精卵のストレス軽減のために大切となります。今回は受精卵の発育に必要なエネルギー源、栄養素などを含む培養液に着目したいと思います。
《受精から着床までの発育の流れ》
初めに、体内での受精から着床までの流れを見ていきます。
卵巣から排卵した卵子は卵管采から卵管に取り込まれ、卵管膨大部で精子と出会って受精します。受精卵は卵管を子宮に向かってゆっくりと移動しながら、受精から2日目頃に2~4細胞、3日目頃に8~16細胞へと細胞分裂を繰り返して発育します。子宮に到達する4日目頃に、分裂した細胞の細胞間が融合した桑実胚になり、子宮内膜に到達した5日目頃に、桑実胚の内部から空間が開き、将来赤ちゃんになる細胞と胎盤になる細胞に分かれて胚盤胞を形成します。胚盤胞は細胞数を増やしながら大きくなり、6~7日目頃に透明帯から飛び出して子宮内膜に着床します。これが受精から着床までの流れです。

《受精卵の発育のために必要な栄養素》
受精卵は受精から初期胚は卵管で、桑実胚から胚盤胞は子宮で発育するため、健康な女性の卵管液や子宮内腔液の成分を分析して、培養液に必要な栄養素が研究されてきました。培養液に含まれる主な栄養素は以下の通りです。
① エネルギー源
ピルビン酸や乳酸は受精~初期胚までの発生初期のエネルギー源に、グルコースは桑実胚~胚盤胞の主なエネルギー源となります。
② アミノ酸
タンパク質を作るための材料となります。また、培養液の浸透圧の制御や抗酸化作用のために添加されます。
③ ビタミン類
補酵素(酵素の働きを助ける因子)の材料となります。
④ アルブミン
脂肪酸やアミノ酸、生理活性物質の運搬を行います。また、培養液の浸透圧を制御するために添加されます。
⑤ その他
発育を促進するための成長因子やホルモンや、ヒアルロン酸、アセチル-L-カルニチンなどの抗酸化物質を添加した培養液もあります。
《シングルステップメディウムについて》
以前は、初期胚は卵管液に近い成分の培養液、桑実胚以降は子宮内腔液に近い成分の培養液を使用して培養した方が良いという考え方がありました。このような培養液をシーケンシャルメディウムと呼び、受精卵が必要な栄養素を、必要な時に供給できることを利点としていました。一方で、受精卵は必要な栄養素を自ら選択して取り込むため、受精から胚盤胞まで培養液の成分を変更する必要はないという考え方があります。このような培養液をシングルステップメディウムと呼びます。培養液の交換をする必要がないため、受精卵への物理的なストレスが少ないことが利点です。
培養液は日進月歩で開発が進み、シーケンシャルメディウム、シングルステップメディウムのいずれを用いても、胚盤胞形成率などの培養成績に大きな差はないことが報告されています。また、タイムラプスインキュベーターの普及により、受精卵をインキュベーターの安定した環境から出さないことが大切だと考えられています。そのため、近年ではシングルステップメディウムを用いて、タイムラプスインキュベーターで培養を行っている施設がほとんどです。
《新しく開発された培養液について》
現在でも、様々なコンセプトとエビデンスに基づいた培養液が開発されています。
① 低乳酸培養液
グルコースをエネルギー源として使用した後に、乳酸が産生されることに着目しました。蓄積した乳酸は、特に胚盤胞の代謝に悪影響を与える可能性があります。乳酸の濃度を低くしたところ、胚盤胞形成率や良好胚盤胞形成率が向上することが報告されています。
② 高濃度ヒアルロン酸を含む培養液
子宮内膜や胚盤胞の透明帯には、ヒアルロン酸に結合するヒアルロン酸受容体が発現しています。高濃度ヒアルロン酸含有培養液は、着床率の向上のために移植の際に使用されることがあります(先進医療)。この培養液が胚盤胞形成率や、良好胚盤胞率を向上させることが示唆されています。
培養液は、受精卵の発生や培養成績に影響を与える大切な要素です。卵巣刺激の方法などの卵子が育ってきた状態、タイムラプスインキュベーターの種類や設定などの培養環境によって、どの培養液が受精卵に最も適しているかは異なります。そのため、各クリニックで培養液の選定が行われており、文献や学会発表などで新たな培養液が報告されると、導入するかどうか検討が行われます。治療成績の向上がみられるか、どのような不妊原因や年齢の患者さんに適した培養液か、様々な要素を見極めていくことが大切です。
当院では、当院の培養環境にあった培養液を選定しております。また、培養液について患者様とご相談させていただくことも可能です。気になる点がございましたら、お気軽に医師にご相談ください。
参考文献
・生殖補助医療(ART)胚培養の理論と実際 日本卵子学会
・胚を高濃度ヒアルロン酸含有培地で培養することで胚の発育が向上する
第28回日本IVF学会学術集会(2025年)O-11
2026/10/8
名古屋上前津ARTクリニック 胚培養士 M.K.
本コラムは一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診療方針を示すものではありません。
治療に関する最終的な判断は、主治医との十分な相談のうえで行ってください。
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