体外受精は、どのような方に適応されるのか|名古屋市中区の不妊治療・体外受精専門クリニック|名古屋上前津ARTクリニック|

〒460-0013 愛知県名古屋市中区上前津2-1-2 ウェスティン上前津1F
052-212-6660
ヘッダー画像

体外受精は、どのような方に適応されるのか

体外受精は、どのような方に適応されるのか|名古屋市中区の不妊治療・体外受精専門クリニック|名古屋上前津ARTクリニック|

体外受精は、どのような方に適応されるのか
― エビデンスに基づく意思決定のために ―

体外受精(IVF)は、妊娠の成立が難しいご夫婦に大きな希望をもたらす医療であると同時に、適応の見極めには慎重な判断が求められる治療でもあります。本稿では、日本および国際的なガイドラインを踏まえ、体外受精が推奨される医学的な状況を整理します。

はじめに

不妊症とは、妊娠を希望する健康な男女が避妊をせずに性交渉を行っているにもかかわらず、一定期間(一般に1年間)妊娠に至らない状態を指します。体外受精(In Vitro Fertilization: IVF)は、この不妊症に対する生殖補助医療(ART)の中核となる治療であり、日本産科婦人科学会の見解では「これ以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断されるもの」を対象とすると定められています¹。

2022年4月からは体外受精・顕微授精が保険適用となり、より多くの方が標準化された治療にアクセスできるようになりました²。一方で、「どのような場合に体外受精を選択すべきか」という臨床判断は、患者さんお一人おひとりの背景により異なります。

体外受精の主な適応

日本産科婦人科学会の「体外受精・胚移植に関する見解」および日本生殖医学会「生殖医療ガイドライン」、ESHRE(欧州ヒト生殖医学会)、ASRM(米国生殖医学会)の各ガイドラインを総合すると、体外受精が明確に適応となるのは以下の状況です¹⁻⁴。

卵管性不妊

両側卵管の閉塞・狭窄・高度癒着、卵管切除後、水腫をきたした卵管など、精子と卵子が自然には出会えない解剖学的障害がある場合。卵管形成術で改善が望めない症例では、体外受精が第一選択となります。

男性不妊(高度精液所見不良)

重度の乏精子症・精子無力症、あるいは無精子症に対するTESE(精巣内精子採取術)で得られた精子を用いる場合。体外受精、とりわけ顕微授精(ICSI)が適応となります。AUA/ASRM 2024ガイドラインでは、男性側の評価と女性側の評価を一体として判断することが強調されています⁵。

原因不明不妊(一般不妊治療で妊娠に至らない場合)

基本的検査で明らかな異常を認めないにもかかわらず妊娠に至らないケース。ESHRE 2023ガイドラインでは、まず排卵誘発と人工授精(IUI-OS)を施行し、それでも妊娠に至らない場合に体外受精へのステップアップが推奨されています⁶。ただし、年齢や卵巣予備能によっては、より早期に体外受精を検討する場合もあります。

子宮内膜症に関連する不妊

中等度〜重度の子宮内膜症(rASRM分類 III〜IV度)、卵巣チョコレート嚢胞、腺筋症合併など。解剖学的異常や卵巣機能低下を伴う場合は、体外受精も有効な選択肢となりますので、年齢や卵巣予備能も含めて個別に検討します。

排卵障害・卵巣予備能低下

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)で排卵誘発に反応が乏しい場合、あるいは早発卵巣不全(POI)・卵巣予備能低下(AMH低値)で時間的猶予が限られる場合は、IUIを含む一般不妊治療を長く継続せず早期にARTを検討することがあります。

年齢因子による不妊

一般に35歳以上、特に38歳を超えると妊孕性は有意に低下します。高年齢で時間的猶予が限られる場合、人工授精を複数回重ねるよりも早期に体外受精へ移行することが、累積妊娠率の観点から推奨されるケースがあります。

妊孕性温存(がん・妊孕性温存療法)

悪性腫瘍治療前の卵子・胚凍結保存。ASRMガイドラインでは、性腺毒性のある治療を受ける前のカウンセリングと妊孕性温存の提供が強く推奨されています⁴。

日本における保険適用の枠組み

2022年4月の保険適用拡大により、体外受精・顕微授精・胚移植を含む生殖補助医療の基本治療が、関連学会のガイドラインに基づき標準化された形で保険診療として提供されるようになりました²。保険適用には、以下の要件があります。

項目 要件
対象 不妊症と診断された夫婦(事実婚を含む)
年齢制限 治療開始時に女性が43歳未満
回数制限 40歳未満:子ども1人につき通算6回まで
40歳以上43歳未満:子ども1人につき通算3回まで
回数のカウント 胚移植1回を1回として算定

年齢制限が設けられている背景には、女性の加齢に伴う卵子の質的低下と、それによる累積生産率の低下があります。しかしながら、これは「43歳以上では治療に意味がない」という意味ではなく、有効性・安全性のバランスを踏まえた医学的・社会的合意として設定されたものです。保険適用外となる場合でも、自費診療での継続や妊孕性温存などの選択肢があります。

エビデンスに基づくステップアップの考え方

体外受精は、しばしば「最後の手段」と捉えられがちですが、実際には患者さんの病態・年齢・卵巣予備能に応じて、最適なタイミングで選択されるべき治療です。ESHRE 2023の原因不明不妊ガイドラインは、予後に応じた個別化されたアプローチを推奨しています⁶。

良好予後群に対する基本方針

女性年齢が比較的若く、卵巣予備能が保たれている場合、まずは自然に妊娠を目指す期間を経て、排卵誘発と人工授精を何周期か施行します。それでも妊娠に至らない場合に、体外受精へと進むのが一般的なステップアップです。

不良予後群・早期ステップアップを検討する状況

一方、女性が高年齢である場合、両側卵管閉塞、重度男性因子、重症子宮内膜症、卵巣予備能低下などがある場合には、時間的猶予や治療効率の観点から、初期段階で体外受精を検討することが妥当です。特に原因不明不妊においては、ESHRE 2023はIVF導入の判断を、年齢、不妊期間、既往治療歴、既往妊娠などの患者背景に応じて個別化すべきとしています⁶。

Clinical Evidence

原因不明不妊に対するIUI-OSとIVFの比較では、一部の研究でIVFの有利性が示唆されたものの、ガイドライン全体としてはIVFの一律な優越性は確立しておらず、年齢、治療歴、治療期間などを踏まえた個別化判断が推奨されています⁶。

治療を選択する前に ― 患者さんへの案内

体外受精は、妊娠・出産という人生の大きな節目に関わる医療です。治療を選択する前には、以下の点について十分にご理解していただくことが望まれます。

1. 治療の有効性と限界

年齢別の生産率、累積妊娠率、必要な治療周期数の目安について、日本産科婦人科学会が毎年公表しているARTデータブックは、実臨床の妊娠・出産成績を知るうえで信頼できる情報源です⁷。

2. 安全性とリスク

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)、多胎妊娠、採卵手技に伴う合併症、長期的な子どもの健康に関する知見などについての情報も大切です。

3. 身体的・心理的・経済的負担

治療は身体的・精神的な負担を伴います。パートナーやご家族とのコミュニケーション、必要に応じた心理的サポートの活用も大切にしてください。

— Our Commitment —

エビデンスに基づく生殖医療を

体外受精についてご相談をご希望の方も、お気軽にご受診ください。

References

1.日本産科婦人科学会「体外受精・胚移植に関する見解」
2.こども家庭庁・厚生労働省「不妊治療の保険適用について」(2022年4月施行)
3.日本生殖医学会編「生殖医療ガイドライン 2025」
4.American Society for Reproductive Medicine (ASRM) Practice Committee Documents.
5.Brannigan RE, et al. Updates to Male Infertility: AUA/ASRM Guideline (2024). J Urol. 2024;212(6):789-799.
6.ESHRE Guideline Group on Unexplained Infertility. Evidence-based guideline: unexplained infertility. Hum Reprod.2023;38(10):1881-1890.
7.日本産科婦人科学会「ARTデータブック」(年次公表)

 

2026/4/23

名古屋上前津ARTクリニック

院長 千田 康敬

本コラムは一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診療方針を示すものではありません。

治療に関する最終的な判断は、主治医との十分な相談のうえで行ってください。

※当院は、名古屋市・中区・上前津駅5番出口目の前の不妊治療クリニックです。

※お気軽にご相談ください。

PAGE TOP