
卵子と精子が出会い、細胞膜が融合するまで
受精はどのように起こると思いますか?
一言で「受精」といいますが、受精する能力を獲得した精子が卵子と出会い、卵子に精子が取り込まれ、卵子由来の核と精子由来の核が形成された後に、それぞれの核が1つに融合することを受精といいます。
不妊治療には、排卵の時期に合わせて膣内に射出された精子が卵管で卵子と出会うタイミング法や、子宮腔内に運動精子を注入する人工授精法があります。また、体外に取り出した卵子と洗浄後の精子を同じディッシュに入れるふりかけ法、卵子に精子をガラスピペットで注入する顕微授精法があります。精子と卵子が出会う方法に違いはありますが、精子が卵子に取り込まれた後の反応はほとんど同じです。今回は、不妊治療の基本となる受精のメカニズムを見ていきたいと思います。
《卵子と精子が出会うまで》
タイミング法や人工授精では、精子は子宮腔内に入ると卵管に向かって泳いでいきます。精子は子宮の壁に沿って進む性質(走化性)と、温度が高い方向に進む性質(走温性)があることが報告されています。子宮内にはわずかに温度差があり、温度が高い卵管に向かって精子は子宮の壁に沿って泳いでいくと考えられています。
一方で卵子は卵丘細胞と呼ばれる細胞に包まれた状態で排卵して、卵管に取り込まれます。卵丘細胞からはプロゲステロンというホルモンが分泌されており、精子はプロゲステロンの濃度依存的に引き寄せられる性質(化学誘因性)があることが報告されています。そのため、卵管に到達した精子はプロゲステロンの濃度が高い、卵丘細胞に向かって泳いでいくと考えられています。
ここで注目したいのは、卵丘細胞はヒアルロン酸を多く分泌している点です。精子の頭部にはヒアルロン酸に結合する受容体が存在しており、精子は卵丘細胞から分泌されたヒアルロン酸に付着します。付着した精子は、精子頭部の先体と呼ばれる場所からヒアルロン酸などを分解する酵素を放出し始めます。この酵素の働きや精子の運動能により卵丘細胞はほぐれた状態になり、精子は卵子に到達することが可能になります。さらに、卵丘細胞を通過した精子ほど、卵子と受精する能力が高いことが報告されています。つまり、卵丘細胞のヒアルロン酸は、受精する能力を獲得した精子のみが卵子にたどり着けるような選別機構として働くと考えられているのです。

《精子と卵子の膜融合》
卵丘細胞を通過した精子は、卵子の外側の透明体に付着します。酵素の働きや運動能により透明体を通過すると、精子の頭部は卵子の細胞膜と近接します。
卵子の細胞膜には微絨毛と呼ばれる突起があり、精子の細胞膜と融合するために必要な因子が多く含まれていることが報告されています。膜融合に関わる因子は、卵子側はJUNOやCD9、精子側はIZUMO1などが見つかっています。それらの因子がお互いに手を伸ばすように働いて、精子と卵子の細胞膜は接着後に融合し、精子が卵子に取り込まれると考えられています。(IZUMO1は日本の研究者が発見した因子であり、ご縁を繋ぐ神様を祀る「出雲大社」がその名前の由来です。)

《最後に》
今回は精子と卵子が出会うまでの過程と、卵子と精子の膜融合について見てきました。タイミング法や人工授精では、精子は卵管まで泳ぐ必要があり、精子濃度や運動率が低い場合は、卵子に到達する機会が低くなる可能性があります。このような場合は体外受精へのステップアップが可能ですので、医師にご相談ください。
また体外受精においては、ふりかけ法で受精率が極端に低い、受精障害が起こる場合があります。受精障害の原因は様々ですが、抗精子抗体が陽性である、精子のヒアルロン酸受容体の発現が低いなどの可能性が考えられます。このような場合は顕微授精法が適応となったり、ヒアルロン酸を用いた精子選別法であるPICSI(先進医療)が推奨される場合があります。受精方法や精子選別方法について、気になる方はお気軽に医師にご相談ください。
《参考文献》
・Thermotaxis of mammalian sperm. Mol Hum Reprod 2022 Jul 29;28(8)
・Molecular mechanism for human sperm chemotaxis mediated by progesterone. PLOS One 2009 Dec 8;4(12)
・Cumulus cells and their extracellular matrix affect the quality of the spermatozoa penetration the cumulus mass. Fertil and Steril 2009 Sep;92(3)
・生殖補助医療(ART)胚培養の理論と実際 日本卵子学会
2026/9/3
名古屋上前津ARTクリニック 胚培養士 M.K.
本コラムは一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診療方針を示すものではありません。
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